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最高裁判所第一小法廷 平成4年(オ)281号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由第一点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

同第二、第三点について

債権者を確知することができないことを理由とする弁済供託は、弁済者が過失なくして供託物を受け取る権利(以下「還付請求権」という。)を有する者が複数の者の中のいずれであるかを確実に知ることができないときにすることができるものであるから、被供託者の中に還付請求権を有しない者が含まれることがあり得るのは当然であり、供託法九条の規定により供託が無効となるのは、被供託者の中に還付請求権を有する者が全く含まれていない場合に限られる。被供託者の中に還付請求権を有する者が含まれている以上、被供託者の中に権利義務の帰属主体となる実体を備えていないものが含まれていたとしても、そのことから供託が無効となるものではない。この場合、還付請求権を有すると主張する者が権利義務の帰属主体となることができる実体を備えていない被供託者を被告として還付請求権確認請求等の訴えを提起すれば、訴え却下の判決がされることになるが、その判決によつて被告が還付請求権を有する者でないことを明らかにすることができる。

右と同旨の見解に立ち、本件供託を有効であるとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に基づき又は原判決を正解しないでこれを非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三好 達 裁判官 大堀誠一 裁判官 小野幹雄 裁判官 大白 勝)

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